本エントリーでは、2012年11月24日(土)、きゅりあんにて開催された「コンテンツマーケティング&戦略」のレポートをお送りします。
コンテンツマーケティング&戦略とは
バズを生み、クチコミを発生させサイトに効果的にユーザーを流入させるためにはどうしたらよいか。それはコンテンツをどのように提供するかという戦略にかかっています。今回のイベントは、コンテンツストラテジー(戦略)やコンテンツマーケティングについてより深く探求していくことを目的に、以下の5名のスピーカー(4セッション)により、ペルソナを用いたコンテンツ提供方法、コンテンツを使った集客、コンテンツの善し悪しを理解するための正しい検証方法などが学べる構成となりました。
- 「コンテンツマーケティングというマーケティングの新しい潮流」(渡辺一男氏・野口聖晃氏)
- 「アクセスアップできるコンテンツの考え方」(永江一石氏)
- 「コンテンツを検証!正しいABテストを始めてみませんか!?」(鈴木 亮氏)
- 「出版社こそ最強のコンテンツファーム - Web Professionalが実証したこと」(中野克平氏)
「顧客に必要とされる」コンテンツは資産となり、結果、検索エンジンにも上位表示されるようになる
イベントのトップバッターとして、日本SPセンターの渡辺一男氏と野口聖晃氏が登壇しました。両氏は、米国で議論が高まるコンテンツマーケティングの手法や考え方について、本年9月に米国コロンバスで開催されたコンテンツマーケティング世界大会(Content Marketing World 2012)で入手した最新の情報などを紹介しました。
コンテンツマーケティングとは、2008年頃から米国で活発に議論されるようになったマーケティング手法です。渡辺氏は、コンテンツマーケティングを、「見込客が欲する情報を企業自らが提供することにより、信頼を獲得し段階的に購買につながる行動を引き起こす技術」と定義できると解説しました。象徴的な事例として挙げられるのが、米国の農機具メーカーのJohn Deere社が、1895年に農家向けに発行した雑誌『The Furrow』の事例です。これは、西部開拓時代が終わり、モノが売れる時代から売れない時代へとシフトした米国で、どうやってお客様とコミュニケーションを取るかという発想で刊行されたものです。コンテンツの内容は、農作物の育て方や、新しい技術の紹介といった「農家にとって役に立つ情報」が網羅されていました。同氏によると、これがコンテンツマーケティングの起源の一つということで、同誌は現在も発行されているとのこと。
これからは、Webだけに限らず、リアルの書籍、雑誌、YouTube、Facebookなどを含め、複数のメディアやツールを使い分け、いかに見込客に情報をパブリッシュするかが大事です。コンテンツマーケティングにも「メディアの変化」「ユーザーの変化」「商品の複雑化」「検索エンジンの変化」という4つの変化が生じており、「顧客に必要とされる」コンテンツが、結局は検索エンジンにも上位にヒットするようになるということです。例えば、米国バージニア州のプール販売会社River Pools & Spa社の事例では、ブログを通じ、コンテンツを整備した結果、サイトへのアクセス数が増えました。
同社の考え方は以下の通りです。すなわち、リーマンショック後の不況でプールの販売も落ち込む状況下で、「プール」でGoogle検索した際に一番上位にヒットするよう、コンテンツを整備しようというものです。ポイントは、プール購入を検討する人に対し、「プールを買う際に役に立つ情報」を提供しようとした点です。「プールをつけると住宅の価値は上がるのか?」「8月の暑い時期に発生する藻の解決法は?」といった役に立つ、読み物として楽しい記事を掲載する取り組みを続けた結果、同社のサイトのアクセス数が増えました。こうした取り組みが従来のキャンペーンと異なる点は、コンテンツが資産となる点です。
引き続き、渡辺氏からセッションを引き継いだ野口氏は、コンテンツストラテジー策定の具体的手法について解説しました。コンテンツストラテジーの策定のステップとして、「商品・サービス理解」「顧客の定義」「コンテンツの抽出」「コンテンツマッピング」の各ステップがあります。同氏は、実際のWebサイトでの適用例として、米国の「DELL.COM」の取り組みを解説しました。サイト上のグローバルナビゲーションの表示方法や、ページ上段、中段、下段にどういう情報がどのように配置されているかというポイントについて、情報を「誰に」「何を」「どういう順番で訴求するか」という点が解明されていきました。
コンテンツを資産として活用し、Webサイトをビジネスに直結させるには、コンテンツストラテジーという考え方がキーになることが改めて理解できるセッションでした。
“集客のためのツール”としてのコンテンツを最初に設計しないといけないワケとは
続いて、ランダーブルー株式会社代表の永江一石氏による「アクセスアップできるコンテンツの考え方」というセッションが行われました。永江氏は、運営者が「見せたいコンテンツ」と、来訪者が「見たいコンテンツ」のミスマッチを解消することが大事であると提唱しました。
同氏によると、集客の基本は、サイト設計の際に集客するためのコンテンツを一緒に考える必要があるというもの。Webサイトを砂漠の中のオアシスとするなら、コンテンツという道路がなければ来訪者は訪れず、都市として発展することはありません。単にクライアントから与えられたお仕着せのコンテンツではなく、どういう手法の集客をするかを軸に発想しなければ、集客がは成功することはありません。
では、どのようにしてコンテンツを用意したらよいでしょう。同氏によると、運営者にとって「見せたい、利用させたい」コンテンツと、来訪者にとって「見たい、利用したい」コンテンツとのミスマッチを解消することが大事だということです。言い換えれば、運営者にとって来て欲しいお客様に役に立つコンテンツが必要なのです。そして、コンテンツは一朝一夕に作ることができません。ですから、最初から設計に入っていないといけないのです。
次に、同氏は、集客用コンテンツの基本的な考え方を解説しました。集客について勘違いしやすいのが、とにかく人が集まればよいという考え方です。人が集まっても、ビジネスの目的(自分たちのビジネスモデル)に沿っていなければ、目的意識が違う来訪者がいくら集まっても売上に結びつけるのは難しいでしょう。同氏は、「来訪者が見たがる、探したがるコンテンツに必要な要素」として、「得をする」「役に立つ」「面白い」「オリジナルであること」の4点を挙げました。
次に、コンテンツ内容でSEO効果を狙うためのテクニックが紹介されました。「使いやすく、役に立つコンテンツを生成する」「ビッグキーワードよりもスモールキーワードを含むページを量産する」「キーワードに関連した役に立つ内容のコンテンツが有利」「サイトで言いたいことはすべて、上の階層に集約すべき」といった差別化ポイントはどれも頷かされるものばかりです。
実際のケーススタディとして、同氏が手がけた茅ヶ崎の釣り船屋のWebサイト改修の例が紹介されました。ネットに特化したお客様の絞り込み(ターゲットの再定義)、釣り船の禁煙化、動画やツイッターを駆使し、魚が釣れた情報のリアルタイム配信、また、釣った魚の調理方法などの「お役立ち」コンテンツの定期アップ、そして釣果情報を「正直に」書くことなど、ビジネスモデルと連動したコンテンツ制作の内容は、すぐにでも自分が担当する案件で応用可能なものばかりでした。
結果がすぐ分かるABテストの活用により、コンテンツの「勝ちパターン」を見つけよう
イベントは後半に入り、ぐるなびの鈴木 亮氏が登壇しました。同氏は、ABテストの実施方法とプロセスを解説しました。ABテストとは、画像や説明文などの素材を複数パターン用意し、素材を入れ替えたWebサイトやバナー広告などを並列で公開・配信することで、利用者の反応を検証し、素材などの優劣を決定する方法です。同氏によると、ABテストは、「UI・デザイン」「コンテンツ表現」に関して、最終的にCVR(コンバージョン率)を上げる「勝ちパターン」をみつけることに重点を置くべきであるということです。
次に、ABテストのプラン方法について解説しました。テスト方法には「スポット型」「シナリオ・プロセス型」というものがあります。前者は、キャッチコピーの文言や、クリエイティブを局所的にテストするもので、クリックしたかどうかを評価指標とする場合とCVRを指標とする場合があります。一方、後者の「シナリオ・プロセス型」は、流入元、対象ページ、パス、ゴールといった、コンバージョンが生まれるまでの一連のプロセスをテストするものです。
スポット型のテストの進め方のポイントは、「比較するサンプルの間で、変更する要素(見せ方や表現など)を2つ以上にしない」ことが大事ということです。デザイン要素を複数変更してしまうと、ユーザーがどこに反応したのかが、テスト結果から読み取れなくなるためです。
次に、「シナリオ・プロセス型」のテストプランの進め方について、シートの作成方法が紹介されました。プランシート作成に際しては、「何をテストするのか」について、テスト概要をなるべく詳細に書き出すことが大事です。これにより、何を確かめたいのかという目的を明確にすることができます。そして、テストをするのはイメージなのか、ランディングページなのかといったテスト形式や評価指標、訪問者割合やセグメンテーション(初回訪問かリピーターか)などを明確に設定していきます。
テストを行ううちに陥りがちなのが、あれもこれもとテストするうちに、本当に検証したいことが見えなくなる状況です。「ランディングページのテストだから、イメージのテストだけでなくバナーのクリエイティブも複数用意したい」などと、あれもこれもと複数の要素をテストしてしまうことを避けるため、テストのゴールを設定し、事前にプランシートを作成し、メンバー間で共有しておくことが大切です。
- テストでみるべき指標はシンプルであること
- 何を出すかでなく、何を確かめたいか
- 結果は、パターンの1つ 正解ではない
こうしたポイントを踏まえながら、上手にABテストを活用し、UIデザインやコンテンツ表現の「勝ちパターン」を見つけることの重要性を再確認したセッションでした。
コンテンツが収益を上げるための“出版プロモーション”としてのWeb活用の取り組み
イベントの最後として、アスキー・メディアワークスの中野克平氏が登壇しました。同氏は、出版社がWebをどう活用するかという点やサイト運営を通じて得たノウハウなどをテーマに、自身が携わった「Web Professional」という情報サイトの立ち上げのエピソードを紹介しました。
まず同氏は、出版社を取り巻く状況について言及しました。インターネットの普及により、雑誌、広告、書籍といった出版社のビジネスモデルが徐々に崩れていった状況や、同氏が、2007年、社内のWebメディア戦略の立案を担当した際のエピソードが紹介されました。同氏は、広告収入に依存したWeb戦略を棄て、Webを出版プロモーションのツールとして活用する道を選びます。
具体的には、「Web Professional」という情報サイトの立ち上げで、これは、編集部管轄の情報サイト内で記事を公開し、それを書籍化して収益を上げようというビジネスモデルとのこと。サイト立ち上げ時の同氏の仮説は、「本を読まなくなったのではなく、新刊が売れないだけではないか」というものでした。実際、1960年からNHKが5年ごとに実施する「国民生活時間調査」によると、読書に使う時間は2005年調査時のものより、2010年の調査の方が増えていることがわかり、結果的に、この仮説は正しいことが裏付けられました。
同氏の考えた「Web Professional」の戦略ストーリーは、「記事を作る」「サイトに人が集まる」「本を宣伝する」「本が売れる」「儲かる」というサイクルを循環させるようというものです。この循環が、どんどんメディアを成長させるというシナリオのもと、様々な取り組みがなされました。その一例として、「Web Professional」立ち上げ後、1年目に発行した2冊の書籍(『Google Analyticsの使い方』『jQueryデザイン入門』)の事例が紹介されました。
書籍のタイトルはGoogle AdWordsのキーワードツールで多かった「Google Analytics 使い方」「jQuery デザイン」をもとに付されたそうです。このように、書籍のタイトルや編集方針もWebでの検索を相当意識したものであることが分かります。また、検証の結果、著者の持つブログなどのコミュニティがクチコミを生み、それが書籍の売り上げにも影響を及ぼすことが分かったそうです。
出版のプロモーションとしてWebを再定義しながら、Web上できちんとコンテンツを作り、それを書籍化(マネタイズ)していくという同サイトの取り組みは、コンテンツをどのように作っていくべきかについて、一つの方向性を示すものだったと思います。「ニーズは高いが、競合が低いキーワードできちんと記事を作る」「顧客データベースの構築」「Webを通じた自社サービスの開発」など、今後の同サイトの取り組みにも注目していきたいという感想を持ちました。
各セッションを通じて、バズを生み、クチコミを発生させサイトに効果的にユーザーを流入させるためには、コンテンツにきちんと向き合うことが大事だという思いを改めて強くしました。そして、具体的なコンテンツ戦略の進め方についても、大いに参考になるセッション内容だったと思います。